Learn Japanese with JapanesePod101.com

鼻 Part 5

Download a PDF of the text.  223 KBHana by Akutagawa Ryuunosuke
View the text as a PDF by clicking to the icon on the right or download the PDF & MP3 in the download section.


 その法と云うのは、ただ、湯で鼻を茹(ゆ)でて、その鼻を人に踏ませると云う、極めて簡単なものであった。

  湯は寺の湯屋で、毎日沸かしている。そこで弟子の僧は、指も入れられないような熱い湯を、すぐに提(ひさげ)に入れて、湯屋から汲んで来た。しかしじかにこの提へ鼻を入れるとなると、湯気に吹かれて顔を火傷(やけど)する惧(おそれ)がある。そこで折敷(おしき)へ穴をあけて、それを提の蓋(ふた)にして、その穴から鼻を湯の中へ入れる事にした。鼻だけはこの熱い湯の中へ浸(ひた)しても、少しも熱くないのである。しばらくすると弟子の僧が云った。

  ――もう茹(ゆだ)った時分でござろう。

  内供は苦笑した。これだけ聞いたのでは、誰も鼻の話とは気がつかないだろうと思ったからである。鼻は熱湯に蒸(む)されて、蚤(のみ)の食ったようにむず痒(がゆ)い。

  弟子の僧は、内供が折敷の穴から鼻をぬくと、そのまだ湯気の立っている鼻を、両足に力を入れながら、踏みはじめた。内供は横になって、鼻を床板の上へのばしながら、弟子の僧の足が上下(うえした)に動くのを眼の前に見ているのである。弟子の僧は、時々気の毒そうな顔をして、内供の禿(は)げ頭を見下しながら、こんな事を云った。

――痛うはござらぬかな。医師は責(せ)めて踏めと申したで。じゃが、痛うはござらぬかな。

内供は首を振って、痛くないと云う意味を示そうとした。所が鼻を踏まれているので思うように首が動かない。そこで、上眼(うわめ)を使って、弟子の僧の足に皹(あかぎれ)のきれているのを眺めながら、腹を立てたような声で、

――痛うはないて。

と答えた。実際鼻はむず痒い所を踏まれるので、痛いよりもかえって気もちのいいくらいだったのである。

しばらく踏んでいると、やがて、粟粒(あわつぶ)のようなものが、鼻へ出来はじめた。云わば毛をむしった小鳥をそっくり丸炙(まるやき)にしたような形である。


Read by Yumi Boutwell 6-5-08
Text from http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/42_15228.html

Support those who Support TJP!

Click here to learn Japanese with JapanesePod101.com